John Henry Bonham #4

なかなか滞りがちのブログです。
いかんですな〜(反省)

さて、ボンゾ特集も4回目です。


今回は、いよいよ本丸、「レコーディング」から解剖するボンゾサウンドです。

かつて、バンドやアーティスト達のレコーディング方法なんて、すべてはあの分厚い防音ドアの向こう側に隠れていて、一切の情報なんてありませんでした。

たまにアーティストやミュージシャンのインタビューでサウンドに関する発言は、実に抽象的だったり、テキトーだったり、ウソだったり、編集者の単なる想像妄想だったりがほとんどで何の役にも立たないものばかりでした。

特に、Led Zepplinは、ジミー・ペイジによる情報統制が徹底していることで有名で、真実は、何もわからない、というのが実情でした。
レコードサウンドから想像するより手立てはなかったわけです。

しかし、ネット時代の到来や、関係者の高齢化によるものであろう「生きているうちに話とこう」みたいな心理状態も働くのか、これまで分厚いベールに覆われてきた様々な秘密が、書籍として、インタビュー記事として、ポロポロ出てくるようになりました。

決定的だったのは、全ての秘密を握る、リーダー、ジミー・ペイジによるロング・インタビューをも実現されたことが大きかったですね。

改めて言うのも何ですが、ロックやポップミュージックとは、作品の質と方向に責任を持つプロデューサー、演奏するミュージャン、そのサウンドを的確に捉えるエンジニア、それらの作業を支える、スタジオ空間と機材、これら全てのコンビネーションにより成立します。

ここでは、主に、ボンゾの各時代のサウンドを共に創出したエンジニアとスタジオ機器(主ににコンソール)に焦点を合わせて解説したいと思います。

「Led Zeppelin I」


わずか36時間で録音・ミックスされ、その後のRock Musicを永遠に変えた9曲入りのデビューアルバム。
エンジニアは、当時、ローリング・ストーンズ、ザ・フー、ザ・ビートルズ等を担当していた売れっ子エンジニア、グリン・ジョンズ。



グリン・ジョンズのドラム録音は、後に、グリン・ジョンズ メソッドと言われるようになるほど、業界の中でも、一つのスタイルとして認知されている録音方法です。

やり方は、たった3本のマイクを使用するシンプルこの上ないやり方。
彼自身の言葉では、このレコーディングの際に、初めて、この3本を使ってドラムをステレオで録音する方法を見つけたとのことです。


Neumann U67もしくはU47、あるいはテレフンケン Ela M251を、スネアの上1.5m程度、フロアタムの後ろ上方(5~60cm?)にも、U67 or 47 or M251、バスドラの前20~30cmにAKG D12等のダイナミックマイクを置く。たったこれだけです。

※実は、彼自身のインタビューの中で、バスドラ用のマイクは、特別なアダフターを使用して、バスドラの中に吊ったりすることもあったそうです。
ボンゾにそれを試したという記述は発見できませんでした。

セッティング図です。


You Tubeに彼自身によるマイクセッティング解説があったので添付します。


肝心の本人サウンドは、やっぱこれでしょう !

「Good Times Bad Times」



実際に聞いてみると、結構雑なステレオですね。L側にセットしたスネア上のマイクバランスが、R側(フロアタム上)マイクより、ぐっとデカくなっているため、ドラム音像全体がL側よりになってますし、当時のドラムサウンドの特徴でもありますが、全体的に歪っぽいです。この歪みは、おそらくテープに録音する際にわざとオーバーロードさせて得られたものでしょう。

今も昔も、ロックレコーディングの肝は、いかに迫力を得られるか です。

やり方は違えど、現在でも、この迫力 = 歪み は生きています。
マーシャルアンプが、1960年代から現在に至るまで、ロックのアイコンとして君臨しているのも一つの証左です。

余談になりますが、当時、世界で一番有名かつ売れていたのは、言うまでもなくTHE BEATLESです。
彼らの作品にも、この歪みは実にうまく取り入れられています。
最初期からですが、特に中期以降は意識して歪ませています。「I am The Wolrus」「Hey Bulldog」・・・・等々、枚挙に暇はありません。
写真は、アビーロードスタジオに標準装備されたマイクプリアンプ、Telefunken V72(真空管マイクプリアンプ)。
ビートルズの各エンジニア(特にジェフ・エメリック)は、これをオーバーロードさせ(時には二重に通して)過激な歪みを得ました。

その他、既に当時からあった歪み用エフェクター、ファズを使ったり、ギターアンプやレズリースピーカー(いずれも真空管アンプ)を通したり、そりゃもう、カッケー歪みを得んがために、エンジニアやミュージシャンは必死だったわけです。

Telefunken V72



またビートルズは、アビーロードスタジオ備え付けのオリジナルコンソールのアウトプットにビルトインされたコンプレッサーを繰り返し通すことで、独特の圧縮感と音圧(迫力)を得ていたことでも有名です。

簡単に言えば、ロックの迫力とは、歪み + コンプレッサー で得られると言っても良いでしょう。
(勿論、第一にミュージシャン自身による迫力ある演奏が前提であることは言うまでもありません。)

THE BEATLES 「I am The Wolrus」



話を戻しましょう。
卓は、レーコーディングしたオリンピックスタジオ特製のオリジナル卓で、作ったのはスタジオスタッフのディック・スウェッテナムという天才です。
当時(1960年代)としては革新的な(イギリス製初)、トランジスタ製のコンソールでした。
この方、後に、「Helios」という70年代ブリティッシュロックを語る上で外せない名コンソールを生み出したことでも名を馳せました。

彼の作ったコンソールはすべてオーダーメイドで、オーナーに合わせて一台一台が違っていたので、数々の有名スタジオだけでなく、エリック・クラプトン、ポール・マッカートニー、ザ・ローリング・ストーンズ(モービル)、等々、錚々たるアーティスト達に愛されました。

その特徴は、同時代の名コンソール「Neve ニーブ」のような、重さや低域の分厚さはなく、ミッドレンジに特徴があり、EQを入れただけで、ミッドレンジ全体の勢いを削ぐことなく各楽器の出過ぎた部分を抑えることができたということです。
のちのヘリオスでは、アンプレベルを突っ込んだ際に飽和して歪む成分が絶妙なエッジを生み出すとの表現もあるようです。

機材話はこれくらいで、肝心のドラムに話を戻しましょう。
この作品で聞かれるボンゾサウンドは、グリン・ジョンズによるシンプルな3点録りも相まって、そのまんまの音になっています。ここでいうそのまんまとは、あくまでもマイク3本を通しただけのサウンド、という意味です。EQも大して使われず、Compも軽く抑えているだけだと思います。
そういう意味では、当時のボンゾそのもののサウンドだとも言えると思います。

個人的には、この録音方法自体は素晴らしいと思うのですが、ボンゾサウンドを表現し切れているか?と言われれば、少し残念な気がしています。
彼のダイナミック極まりないサウンドを捉え切れていない気がします。
ボンゾは、初めてのレコーディング。グリン・ジョンズにとっても、彼のようなタイプのドラムを録音するのは初めてのことだったからでしょう。

グリン・ジョンズ自身の言葉です。
「私は一も二もなく飛びついた。ジミーとは地元が一緒で、60年代前半からよく知る仲だったし、ジョン(ポール・ジョーンズ)は長らくロンドン随一のセッションベーシストだったからだ。(中略) 
この二人が組んだのだからいいものになるに決まっているという確信はあったものの、数週間後、オリンピックスタジオに赴いたときにはまだ、自分がこれから何に足を踏み入れることになるのか、よくわかっていなかった。
正直、足元から吹っ飛ばされるほどの衝撃だった。それからの9日間で私たちが作ったアルバムは、ロック史に残る大きな一歩に他ならない。ロックを全く別のレベルへ連れていった歴史的一枚だ。」

また、ボンゾに関してはこんな風に。
「ジョン・ボーナムと、そして彼が供する並外れたサウンドと共に仕事をしたからこそ、この録音方法を見つけられたと思う。
この技をうまくいかせるには、優れたサウンドをくれるドラマーがまず必要なんだ。」

グリン・ジョンズ著「サウンド・マン」より


以下余談です。
グリン・ジョンズは、60~70年代を通じて、様々なビッグ・アーティストとレコードを作ってきました。

そんな中で、特にドラムサウンドが素晴らしいなと思う作品がこれです。
Eagles 「Desperado」。

Eagles初期を代表する名曲ですが、ブリティッシュを代表するエンジニアの印象が強いグリン・ジョンズが、まさにアメリカを代表するバンドのデビューをプロデュースをしたということは少し意外な感じがします。

しかし、このDesperadoが入った2枚目のアルバムは、発売当時はあまり売れなかったせいもあったり、カチッとした英国流を押し通したグリンとバンドがうまくいかなかったりで、3rdの「オン・ザ・ボーダー」制作途中で袂を分かちました。

後を引き継いだのが、アメリカ人の、ジム・シムジクです。
その際、ドラマーでボーカルのドン・ヘンリーは、彼にこう尋ねたそうです。

「ところで君は、ドラムに何本のマイクを使う気だい?」

ジムはちょっと考えてこう答えました。

「曲にもよるけど、10~12本くらいかな?」

ドン、「それならOKだ」

よっぽど、グリンの3本マイクが嫌だったんでしょうか? www
まぁ、気持ちはわかりますが。

しかし、Desperadoで聞けるグリンサウンドは、とてもたった3本のマイクで録ったとは思えないほど見事なステレオ音像かつ自然なサウンドで素晴らしいです。
一度こんなサウンドを録ってみたいと思っています。

その後、ジムとEaglesは、「呪われた夜」「ホテル・カリフォルニア」を制作。

立て続けにミリオンセラーを連発し、アメリカを代表するバンドになってゆくのは周知の通りです。


YouTubeで、曲毎のコンテンツを見つけることができなかったので、ベストアルバムから紹介します、すいません。20分18秒くらいからDesperadoのドラムが入ります。
続く「呪われた夜」はジムによる各パーツ毎のマルチクロースマイクサウンドなので、よりサウンドの違いがはっきり分かります。

Eagles 「Desperado



                                                                   
さらに続くwww

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